いただいたメールを、御本人の承諾を得て、紹介させていただきます。

1. Kさんからのメールと、その返信

 「既成の音楽シーンに反抗云々…。う〜ん。」

2. Kさんからの2通目のメールと、その返信

 「絶対にグルーヴ(要するにノリ)というものが必要…」

   

*. 前頁に戻る

 

 

 

 

 

 

*****************************************************************

Kさんからのメールと、その返信

****************************************************************

> 「東京ロッカーズ」 というバンドは、私の知る限り存在しません。

> それは79年(だったかな?) S−KEN・リザード等といった

> バンドが行っていたギグのタイトル、及びその演奏を収めた

> オムニバス・ライブ・アルバムのタイトルです。似たような企画で、

> 『東京ニューウェイブ』というのもありました。

 

(注:上は、改訂前、70 年代に「東京ロッカーズ」という日本のパンク・バンド

   があったらしいと書いていたことに対するKさんのご指摘 )

 

> 何を根拠にパンク・ロック(私はロックという表現方法の一つ

> として好きなもんで)が1977年に出現した事になってんでしょうか?

> ピストルズのデビューは76年だし、ラモーンズなんかもっと前から

> やってるし…。

 

おっしゃる通りです。

私が 1977 年というのは、パンクのファンにとっては、それが一種のコンセンサス

になっているからです。私個人にとっても 1977 というのは特別な意味を持ってい

ます。やっぱり決定的な年だといえるのではないでしょうか。ロンドン・パンクの

五大バンドのアルバムが出揃ったのは1977 年ですし、多くのパンク・バンドが 1977

年を特別な年として、曲にもしています。(例えば、クラッシュの 1977 とか)

しかし、その前からパンクは始まっていたというのは、その通りです。

 

> 既成の音楽シーンに反抗云々…。う〜ん。

> まあ、確かに当時のイギリスのパンク・ロック・バンドからは

> 黒人音楽からの影響など微塵も感じられませんが、

> やってる事はと云えば、要するにロックン・ロールですよね。

> すべてを否定して、まったく新しい音楽を生み出したとは思えません。

> WIREなんかはかなり斬新な音出してましたけど、

> ロックのフォーマット(歌手・ギター・ベース・ドラムというコンボ・スタイル

> 自体、チャック・ベリーが確立したと思われる)でやってる以上

> 間接的に何らかの影響は受けてると思います。

 

パンク・ロックという言葉は私も使いますが、パンクはロックではない、という

のが私の意見です。おっしゃる通り、チャック・ベリーによって生み出されたロ

ックは、本来は黒人音楽なのであって、パンク・ロック以前のロックの歴史は、

白人が、黒人のロックをいかに自分のものとして吸収、同化するかの歴史だった

といえます。パンク・ロックと、従来のロックとの決定的な違いは、ロックから

グルーブを排した点にあります。(さらに、ギター・ソロのような即興演奏が無

くなっていることにも、注意するべき)

簡単にいうと、それまでのロックが本来的に持っていた、ダンス・ミュージック

的な要素が排され、頭で考える音楽になったということです。ここにきて、完全

に黒人音楽から脱却し、ロックは自由になって別のものに生まれ変わった。これ

が私の考える図式です。

 しかし、注意して貰いたいのは、「生まれ変わった」といっても、全く新しい

ものになったのではなく、先祖帰りをした部分も大きいということです。(ラモー

ンズや、ブロンディは 50,60 年代のビート・ポップに題材を取っています)

ここまで来ていえることは、パンク・ロックは、白人にとってのルーツ・ミュージ

ックになったということです。

 これは、パンクがそれ以前のロックから何の影響も受けていないと言うことでは

ありません。というより、当然、受けています。ただ、ロックとは、似て非なるも

のだと言っているだけです。

 

> ビリー・アイドル(例えがショボイが)だって、ビートルズが

> 好きでしたって言ってたし、ジョー・ストラマーだって、

> 子供の頃ラジオで聴いたストーンズにシビれた…と告白しています。

> また、ジョニー・ロットンの黒人音楽・特にレゲエに対する造詣の深さ

> は有名です。

 

ジョー・ストラマーは、「1977」の中で、「77年にはストーンズは用なしだ」

と歌っています。また、グレン・マトロックは「ビートルズが好き」と口走った

ために、ピストルズを首になったと言われています。(多分、これは意図的なデ

マでしょう)当然、バンドや個人によって認識の差はありますが、断絶は大きい

と思います。確かに、ビリー・アイドルは READY,STEADY,GO の中で、「ビートルズ

が好き」と歌っていますね。

ジョニー・ロットンのことについては、パンクを卒業した後に、レゲエなど

に注目したと考えるべきなのではないでしょうか。彼はピストルズ脱退後、全く

新しい音楽を始める必要があり、その時の手掛かりが、これまでの西洋音楽には

ない音楽的レトリックを持つレゲエだったということです。

余談ですが、「行き詰まった西洋文明」という図式は、パンク・ロックにも当て

はまります。パンクは生まれた時から、すでに行き詰まった音楽だったのであって、

そこからどうするかが、大命題なわけです。多くのパンク・バンドがアルバム一枚、

シングル一枚を残して解散した理由がそこにあると思います。

 

> あと、なぜパンク・ロックから必然的に排他的な要素が生まれ、

> それがナショナリズムにまでなっちゃうんですか?

> 「当時、有色人種によるパンク・バンドが存在しなかった」事が

> 排他的という事なんでしょうか?それともパンク・ロックが

> 白人のルーツ音楽だから?

 

排他的な要素があるのは、それが白人のルーツ音楽だから、というのが私の意見

です。別にパンクスが意図的に排他的な音楽を作ったということではありません。

パンクには血の問題というのが、絶対あると思います。パンクを聞けば、どこか

で自分のルーツを意識することになるのではないでしょうか。白人以外には、パン

クができないというよりも、例えば日本人がパンクをやるなら、それなりのやり

方をしなければならないということです。

それから、パンクがナショナリズムになるのではありません。(そんなことは有り

得ません)パンクが、ナショナリズムを引き込んでしまったのです。

 

> 冒頭で書いた通り日本でも

> 東京や関西では意識的な人たちがそういうシーンを作ろうとしていたし、

> 福岡ではモッズの前身である開戦前夜が、名古屋ではスタークラブが

> すでにリアルタイムで活動を始めていたはずです。

> 82年頃だったか中国の龍(Dragon)というバンドのLPが

> 日本で発売された事もありました。

> その後バッド・ブレインズなんかも出て来ましスし、

> ブラジルのパンク・シーンなんか結構盛り上がってるらしいですよ。

> 世界中で始まってましたよ、きっと。

 

上に書いてあることは、80 年代 (ハード・コアの時代)になってからのことなの

ではありませんか? ハード・コアの時代になると、また少し局面が変わってき

ます。ロックという表現から逸脱したパンクに対する、解釈が始まったといえば

いいでしょうか。オリジナル・パンクは、スタイルよりも流れている血に根ざし

た初期衝動を感じますが、ハードコアはそこから一歩進んで、解釈やスタイルの

問題に移ったといえると思います。その解釈の一環として、おっしゃるように、

世界中でパンク・ロックへの取り組みが始まりました。それによって、本家のパ

ンクに対する揺さぶりもありました。特に、日本のハード・コア・バンドは、パ

ンクの主流に重大な影響を与えています。

 

> 確かに始めたのは白人ですが、やってた本人たちは

> 「パンクは白人のルーツ音楽」なんて考えは無かったんじゃないでしょうか。

 

そうなんです。そこが問題なんです。やってる本人たちに全然自覚がなかったか

らこそ、パンクは様々な問題を抱えこんでしまったと思っています。また、

当時の英国の若者たちが非常に不遇な立場にあったため、他の人間の問題なんか

知ったことじゃないという理由で、都合の悪いことは無視するという態度が正当

化されてしまった部分もあります。

 

> それに、Oiはともかく、70年代のバンドのほとんどは特に思想とか

> 無かった様な気がします(クラッシュはラスタとの連帯を訴えてましたけど。)

> 少なくとも、70年代に「反戦・平和」とか言ってるパンク・ロック・バンド

> ってあんまりいなかったような…(あっ、S.L.F.がいたか)。

 

パンクが持っている最も大きな意味は、パンクを通して自分たちを取り巻く状況を

捉え直そうとした、或いは、新しい価値観を提示しようとしたことではないでしょう

か。共産思想を持っていたクラッシュは別格として、どのバンドも、その時代、

(ノンポリのダムドでさえも)かなり政治的な発言を行っていましたし、歌詞から

も新しい思想を読み取ることもできるのでは?

「反戦・平和」のスローガンを掲げるバンドが前面に出てきたのは、確かに 80 年

代になってからかもしれませんね。

 

> 「ロックという表現方法には、私は何の興味も感じ」ないのに、

> 「白人のロックンロール」としてのラモーンズは聴くんですか。

 

これまで説明してきたように、私にとってロックは表層的な表現でしかありません

が、パンクにはもっと根元的なものを感じています。

しかし、ロックを否定していると取られては困ります。私だって、最初はビートル

ズだったし、キッスを聞いていたことだってあるんですから。今、現在の私は、ロ

ックを必要としていないというだけです。

 

> たまには日本のバンドも聴きましょうよ。

> 白人だろうが、黒人だろうが、アジア人だろうが

> ロックだろうが、なかろうが、いい音楽はいっぱいありますよ。

 

勿論です。私は日本のスカコアは丁寧に聴いてるんですよ。スカコアの

いい所は、様々な人種が集まって一つのシーンを作っていることです。ロック

だって聴いてないわけではないんです。最近だと、クーラ・シェイカーなんか

は良かったです。レイジやベックなんかも。

 

> 長くなってしまってどうもすいません。

> かなり批判的な論調になってしまいましたが、

> 私もパンク・ロック大好きなもので…。

 

とんでもありません。返事の文章中、気にいらない箇所があったかもしれませんが、

決して悪気があるわけではありませんので、お許しください。

 

 

****************************************************************

* Kさんからの2通目のメールと、その返信

****************************************************************

 

> 「パンク・ロック」とは「頭で考える音楽」ですか…。

> あなたは、ライブに行って踊らないんでしょうか?

> 座席に座ったまま腕組みでもしているのでしょうか。

> レコードを聴いていて自然と体が動きませんか?

> スピーカーに向き合って、何やらムズカシイ事を考えているんでしょうね。

 

そんなことはないですよ。ライブに行って体を動かしてきます。(あれをダンスとい

えるかどうかはちょっと自信ないですが。それから、最近、モッシュはちょっと苦

手です)だけど、逆に私からの質問です。ポゴはダンスといえるのでしょうか。それに、

あなたはグラインド・コアを聞きながら、体を動かすことができますか? 

 

> もちろん踊るためだけの音楽ではありませんし、

> 決して単なるBGMでもありませんが、

> あそこまで言い切るのはちょっと…如何なものかと思います。

> 私は、ポピュラー音楽(大衆による大衆のための音楽という意味)には

> 絶対にグルーヴ(要するにノリ)というものが必要だと思います。

 

確かにあまりにおおざっはな言い方をしてしまいました。パンクはその他のロック

とは違うと感じている私が、パンクの発展の方向を説明するための意見と受け取っ

て下さい。パンクといっても様々な局面があるわけですから、Kさんのおっしゃる

ことは正論です。特に 90 年代に大衆性を取り戻したUSAパンクは、ロックのグ

ルーブを再度、取り込むことなしにはありえませんでした。そのことについては、

90年代のUSAパンクの項で取り上げるつもりです。

 

> HPのニューヨークのところで書かれていた、

> ビートルズを揶揄した発言をしたとされる

> 「ジョン・ウォーターズ」っていったい誰でしょうか?

> ここんとこだけ良く分からないので。

 

ジョン・ウォーターズは、映画監督です。

「ピンク・フラミンゴ」という悪趣味な映画を作って、有名になりました。

「ピンク・フラミンゴ」はともかくとして、「ヘアー・スプレー」あたりはお勧め

です。パンクのファンなら、出演者や音楽は興味深いと思いますよ。ちなみに、

今、単館上映されている「アイ・ラブ・ペッカー」は彼の作品です。