back

工事中


酒井潔
 彼は日本人と見られることが比較的少いさうである。アラビアの貴族ムハメット・サイシャ―本人ではさう言つて、例のスマートなスタイルでポカリポカリと銀座を散歩したものだ。事実、誰が見てもさう思はれるほど彼の色彩はエキゾチックに出来てゐるのだ。美術学校出身で、本来の職業は画家であるが氏の髪の薄い頭から発散する才智はは、翻訳に小説に、装幀に、往くとして可ならざるなきジレッタンティズムを発揮する。既にエロには凝り凝りしてゐるやうでもあるし、ないやうでもあるし、その間の消息がハッキリしないが、何と言つても梅原、酒井のバッテリーで取組んだ頃が氏のもつとも華々しい時代であつたらう。けれども、どちらかと言へば芸術家肌の人間だけに自から陣頭に立つことは彼の最も忌むところで、常に帷幄の人として終始したから、その数多い研究発表があるにも拘わらず、縄目の恥辱なんてものはただの一度も受けてゐない。いつも運よくすらりすらりと抜けて来てゐる。雑誌変態資料に「古代性欲教科書」の一文を掲げて彗星の如く出現して以来、その著書は十余に達するが、就中「らぶ、ひるたあ」は最大の力作、最大の傑作として軟派文献史上に永久に記念さるべきものであらう。一般的に好評を博したものでは「巴里上海歓楽郷案内」「日本歓楽郷案内」等があるが「世界好色文学史」の編纂に全力を傾けたこともまた忘れてはならない。

「現代談奇作家版元人名録」(『談奇党』昭和6年12月号)より。


◎酒井潔単行本書目稿◎
『アラビヤン・ナイツ』
酒井潔訳・挿画上海・仏蘭西租界ビブリオフィル・アフロデフィル協会刊。昭和2年発行。24×33糎。並装。本文2色刷。挿画12葉(内6葉多色刷)。限定500部。内、A版1が手彩色挿画、2〜10番は局紙刷、B版11〜500アンティーク紙刷。非売品。発禁。

巻末にある限定番号の内訳説明。


『愛の魔術』國際文献刊行會刊。昭和4年1月4日発行。贅沢版5円50銭。贅沢版・限定500部記番。番号1〜20は、総羊バックスキン装透かし入り特製紙酒井潔肉筆彩色コンポジション入り「日本有数の製本家桜井氏」制作。頒布外。番号21〜500は、総羊バックスキン装透かし入り特製紙本文2色刷り。ロップス多色刷り挿画貼付。普及B版は凾付。


『さめやま』文藝市場社刊。丸背革装。凾付。シャンスール作。酒井潔・梅原北明共訳。豪華版限定500部。昭和5年発行。実際は、酒井がドイツ語原書を訳した。ほかに超贅沢版限定100部総革装、普通版1000部あり。
『さめやま日本の人形
(譲受再版)大洋社刊。凾付。シャンスール作。酒井潔・梅原北明共訳。昭和4年発行。実際は、酒井がドイツ語原書を訳した。
『降靈魔術』
春陽堂刊。丸背上製本凾付。昭和6年4月28日発行。尾崎久彌序文。定価1円80銭。


『らぶ・ひるたぁ』文藝市場社刊(談奇館随筆第1巻)。丸背革上製本。昭和4年3月5日発行。定価2円50銭。図版多数。本文2色刷。伏せ字をうめる小冊子がほかにある。私のは最初から挟まっていたが、つい先頃の某古書展で、これの伏字表だけで8000円の値が付いていた。吃驚。


『巴里上海歓楽郷案内』竹酔書房刊(談奇群書第1輯)。四六判。並装。昭和5年7月発行。
『奴隷祭―ルイジアナ白奴隷蛮習
竹酔書房刊(談奇群書第2輯)。ドン・ブランナス・アレラ作、酒井潔訳・装幀。丸背上製本。凾付。昭和6年2月10日発行。定価1円20銭。挿画6葉。いつぞや沼正三『ある夢想家の手帖から』にこの書について触れている箇所を見つけ「さすが」と思ったことがある。この肌色表紙のほかに、青色表紙版があるらしい。


異国風景浮世オン・パレード』竹酔書房刊(談奇群書第三編)。四六倍版。酒井潔編著。昭和6年2月20日発行。定価1円80銭。挿画多数。


『日本歓楽郷案内』竹酔書房刊(談奇群書第4輯)。四六判。並装。昭和6年4月15日発行。定価1円30銭。


『獄中性愛記録』マリイズ・ショワジ作・酒井潔訳。風俗資料刊行会刊。昭和6年8月10日発行。並製カバー付。普及版は昭和7年6月15日発行。50銭。本多眞『書物が語る談奇人・酒井潔』にもあるように、普及版とは初版の三方裁ちをしてカバーをかえて、奥付の上に新たに奥付を貼り直したもので、中身は初版と全く同一。

書影は普及版。


『仏蘭西艶文献』風俗資料研究会刊。カバー付。昭和7年発行。
『薫苑夜話』
三笠書房刊。並装カバー付。昭和8年6月5日発行。定価1円80銭。口絵写真酒井宛南方熊楠葉書等。『薫苑秘話』というのが発禁になり殆ど押収されてしまったので、これを出したらしい。

初版本扉


『悪魔学大全』桃源社刊。丸背上製本。凾帯付(並製カバー帯付の異装版もある)。昭和46年10月20日発行。定価1200円。解説澁澤龍彦。解題八木昇。


『愛の魔術』桃源社刊。並装カバー帯付。昭和53年6月15日発行。解説澁澤龍彦。装幀佐脇成行。定価880円。



◎『談奇』(全7冊)

酒井潔個人雑誌。昭和5年5月〜



酒井潔関連書
古田昴生『酒井潔覚え書』

名古屋豆本(27集)。73×100粍。角背上製本。限定300部記番。昭和47年2月刊。巻末に亀山巌「版元覚えがき」。表紙画亀山巌。


本多眞『書物が語る談奇人・酒井潔』

私版。菊倍判。布表紙本文袋とじ丸背上製本。平成6年8月刊。限定25部。


日本基督教団京都教会百年史編纂委員会編『京都教会百年史』

日本基督教団京都教会。 昭和60年1月刊。紬クロース装丸背上製凾付。☆もと四条教会と称した京都の古堂の回顧資料、中に終戦直後の信徒活動として「酒井生活科学学院」に触れた部分ほかがある。酒井潔の葬儀は同教会で行われ、別冊「太陽」に掲載された酒井の全身写真もこの教会に保存されていたものであった。


『酒井潔覚え書』書影と『京都教会百年史』については情報提供をいただいた、感謝!
工事中。。。
酒井潔に関する情報提供求む。