書評


絶滅危惧の野鳥事典

 最近、天然記念物という言葉を聞かなくなりました。いわば、天然記念物に代わる言葉が、この絶滅危惧(きぐ)種です。同じ生き物がどうしてという疑問がありますが、実は天然記念物は文化庁、絶滅危惧種は環境省と担当する官庁が違うのです。

 天然記念物は明治・大正時代からの指定もあり、現在の環境変化に対応していない部分があります。それを解消するためのものが絶滅危惧種です。それだけに、途中でチェックが行われ、リストが変わっていくという特性があります。環境が変わり、その影響を受けて生き物も変わるのですから当然のことです。ですから、このような事典があるのはとてもありがたいと思います。

 本書を読んでいただくと「えっ、この鳥も絶滅が危惧されているの?」と驚かれることと思います。絶滅が危惧されているのは、トキやコウノトリといった鳥たちばかりではありません。たとえば、ウズラがそうです。私は40年以上鳥を見ていますが、自然のなかでウズラに会ったのはわずか2回だけです。サンコウチョウ、ヒクイナ、ヨタカ、サンショウクイ、アオバズクといったかつての身近な鳥たちも並んでいます。これらの鳥は、ひと昔前の図鑑を見ると「村落の鳥」の項に載っている鳥たちです。

 天然記念物というと遠い存在かも知れませんが、絶滅危惧種はついこの間まで身近な存在だった生き物もいるのです。それだけに、私たちの生活が影響し、私たちもその環境の変化の影響を受けていることがわかる事典です。

(「日本農業新聞」2008年1月28日号・松田道生)


 日本人は古来、鳥の姿や声を愛で共生してきたが、明治以降の乱獲や戦後の自然改造により、鳥たちが生息できる範囲は狭められていった。この結果、鳥は日本の脊椎動物の中でも、最も多くの種の絶滅を招いたグループとなってしまった。

 本書は、環境省がまとめたレッドデータブックの中から100種を選び、より詳しい解説によって彼らの姿と生息する環境の現状を紹介している。減少の理由を検証することによって、鳥を支えている日本の自然の多様性と、それを保全するための多岐にわたる問題について言及することが狙い。

 例えば、居酒屋で焼き鳥になっているウズラが準絶滅危惧種に指定されていることはあまり知られていないだろう。現在、日本で飼育されているウズラは650万羽にも及び、年間2万tもの卵を生産しているが、野生のウズラの現状は深刻だという。草地の回復と維持管理が彼らの生息地の保全には最善の策だと著者は指摘する。

 歴史や社会のあり方、人々の自然観は、環境保全と深い関わりを持っている。日本の自然がどのような過程で現在の姿になり、鳥たちがどのような影響を受けてきたかを辿ることは、これからの日本人が自然とどう共生すべきかについて考える材料を提供してくれるだろう。

(「環境新聞」2008年2月6日号)


 ノグチゲラ、イヌワシ、アホウドリ、雷鳥など環境省のレッドデータブックから百種を取り上げた、川上洋一著「絶滅危惧の野鳥事典」(東京堂出版・2900円)が出版されました。生息環境、減少原因などを紹介。アカガシラカラスバトは、小笠原諸島の湿性高木林に生息、しかし森林伐採、移入植物・動物の増加、狩猟などで減少し、現在30〜40羽。上野動物園で5年間に3羽を13羽に増殖。島の生態系に重要な位置を占め「失ったら小笠原諸島の自然の価値を失う」と警告します。

(「しんぶん赤旗」2月24日号)


 最近、庭を訪れる野鳥の数が減っている事に気付いた。一昔前までは、雀が五月蝿い位来ていたのに。日本の野鳥の中でも、昔から人の生活圏の傍らにいた、そんな身近な雀ほどの鳥が減ったのだから、より自然を好む鳥たちは、さらなる苦境に立たされているということか。だがここで、そう容易く彼らの減少理由を環境破壊か、と一言で片付けてしまうのは短絡的、と冒頭、著者に一蹴されてしまった。

 鳥たちは、その生息域によって全く必要とする自然環境が異なる。だからこそ一つ一つ減少理由を検証し探る必要がある。そこには、人の歴史の歩みが密接に絡み合い、そこから日本の野鳥を育む自然の多様性と、いかに保全すべきか、という難題が見えてくることになるのだが、現在日本に生息する鳥の1/4が、絶滅が危惧されているというから深刻である。本書では、その中から100種を挙げ、彼らの置かれた現状、過程を詳しく説明し、また、日本の自然環境を分かりやすく解説している。

 それにしても、鳥類の姿形は多様で魅力的だ。当たり前の様に見ている鳥の姿、ウズラ、ツル、ワシ…、自然が創り出す芸術の妙に改めて気付かされる。著者の言う、「花鳥風月」という言葉もまた、日本人の自然観を表現する上で欠かせないものであったし、世界の芸術家たちが幾度と無く題材としてきたのも頷ける。

 そんな自然の芸術を纏った鳥たちが、今、それぞれに脅かされている。共に共生するためには、彼らが自然界から、また一つ、また一つ、と姿を消してしまってから気付いたのでは遅いのだから、と思う。

(「MORGEN」80 2008年3月号・鴨井小美)


 環境省がまとめたレッドデータブックに記載されたものの中から、絶滅の恐れのある野鳥100種をピックアップ。彼らの瀕している危機的な状況を単に環境破壊のひと言で片づけてしまうのではなく、それがどのような社会的・歴史的背景のもとで進行してきたかという事実関係に焦点を当て、それぞれの種ごとに生息環境の現状と今後の展望などについて詳しく解説している。さまざまに意見の分かれる問題であるが、一刻も早い環境保全の取り組みが待たれる今、あえて本書が辛口の提言をしたことの意味は大きい。

(「BIRDER」2008年3月号・BOOK REVIEW)


◎野鳥から探る自然との共生の道

 環境省がまとめたレッドデータブックの中から100種の野鳥を取り上げ、1種ごとに生息環境の現状を紹介。自然科学ライターの著者が、減少した理由を独自の観点で検証し、読み物風に解説している。

(「野鳥」2008年4月号)


野鳥の今を知ることで、自然保護の見方が変わる?

 多くの野生動物が絶滅の危機に瀕している。だから人間は、森を守ったり、海洋汚染を食い止めたり、地球温暖化を抑えていかなければならないという。当然、言っていることはよくわかるんだけれど、具体的に自然環境がどう悪化しているのか、また、何をすれば環境が守れるのかが、今ひとつよくわからない。

 そんなことを思っていたら、こんな本に出会った。「絶滅危惧の野鳥事典」。最初は、絶滅危惧種を扱った図鑑だと思って手に取ったんだけれど、中身は文字通り「事典」。ページはモノクロで、鳥のイラストが一点描かれているだけ。後は文字がびっしりだ。でも、その文章を読んでみると、ただ野鳥を紹介しているだけではなくて、今どんな状況に追いやられていて、何が原因で危機的状況になっているのかが、細かく書かれている。

 野鳥のことが知りたくて読みはじめたのに、気が付けばどんなことをしたら自然を守っていけるのかが、なんとなく見えてきた。ただ漠然と「自然を保護しよう!」じゃなくて、こんな本を通じて自然がどう壊されているのかがわかれば、もっと自然保護に興味が持てるんじゃないかな。

(「GARRRV」2008年4月号・牛島義之)