闘 病 記

仁義なき史上最凶の乳ガン患者

血盟編その1

 撮影が終って慶應での放射線治療が始まるまでの2週間ばかりは、抗ガン剤の副作用で体調もすぐれないうえにヒマなので、どうもマイナス思考になっちゃう。んでもってこーゆーときに限って、テレビで末期ガンの患者が死ぬまでのドキュメンタリーなんかやってるのをついつい見ちゃったりして、ますます落ちこむんだよな。ダンナも仕事やら確定申告やらで忙しいみたいだし。これではいかんということで、都内まで展覧会を見に行ったり、遅蒔きながら近藤Drの伝説の書「患者よがんと闘うな」を読んだりしていたものの、何をしている時が前向きになれたかというと、やっぱり乳ガン患者同士の情報交換が一番。患者会や診療の時に待ち合い室で知り合いになった人たちは、手術を受けた病院もいろいろだったりするから、それぞれの症状ばかりでなく、Drの治療法や考え方の違いをナマで聞くことができて、たいへん面白い。自分が受けている治療については、あれこれと不安に感じてしまうものだけど、こうしていろいろな情報を集めてみると、けっこう客観的に見られるようになるもんだ。

 もっとも乳ガン患者だっていろんな人がいるわけで、こっちは情報交換のつもりでも、ロコツに「あー私の方が軽くて良かった」ってな反応をするヤツや、「あなたなんていいわよ、私の場合は…」と、屈折した病気自慢をするのも少なくない。まー生き死にがかかっているからしょーがないかって気もするが。しかしこんなのはまだカワイイ方で、某患者会の要職にあった人物などは、やたらに自分のお気に入りの病院をまわりに勧め、なかには予約まで取られちゃって行かざるを得ないハメになった人もいるとか。これだけならただのおせっかいオバサンですむんだけど、どうやら特定のDrに敵意をもっているらしくて、ある集まりでその人の話題が出たら、ロコツにいやな顔して悪口まで言ってやんの。こっちもカチンときたから「何でダメなんですか」って聞いたら「なんだか虫が好かない」だってさ。そんなセリフを公の場でよく口にできるよなー。さすがに出席者の顰蹙を買っていて、あまりにシラケたんでその後この患者会には近寄らないようにしてたんだけど、風の噂に聞いたところによると、今ではこの人物は会をやめて、新たに大きな組織を立ち上げようとして動き回っているそーだ。おいおいそこまでしたいか。結局乳ガン患者の世界も一般社会の縮図そのもので、いやなヤツはもちろん、他人を思い通り動かしたい権力指向バリバリのやつもいるということですね。手術をしてからしばらくは、乳ガン患者だというだけでシンパシーを感じていたもんだけど、別に意識があるヤツばかりが病気になるわけじゃないという、当り前のことに気づいたのでありました。

 そうこうしているうちに、ようやく慶應での治療が始まることになったんだけど、なんせ片道一時間はかかるからね。やっぱり行き帰りの電車での心配は、その間に体調が悪くなったりとか、手術した側のおっぱいをチカンに触られたらどうしようということじゃなくて、頭に何をかぶって行くかということだ。もちろんあんな写真を撮っちゃったくらいだから、つるっパゲのままでもいいんだけど、いつもパンクファッションでいる訳ではないから似合う服をコーディネートするのが大変。それに2,3ミリほどのびはじめて来たので、カッコイイスキンヘッドを維持するには、毎日バリカンあてなきゃいけないのもめんどくさい。何よりもちょうど出勤時間帯だから、善良な会社員や学生を朝からビックリさせるのも悪いしね。そこで脱毛に備えて以前買っておいたカツラをかぶっていこうと思ったんだけど、これが問題。ヶチって若い子が遊びにかぶるようなストレートのやつにしたもんで、ぜーんぜん似合わやしない。湘南での抗ガン剤の点滴にかぶっていった時も、看護婦のネーチャンの顔に「無理な若作りです」と書いてあったので、さっさとはずしてベッドの枕のうえにおき、布団を寝てるように丸めて「かかったな、空蝉の術!」と、Drをおちょくるぐらいにしか使えなかったんだよな。仕方なく、友人がくれた帽子に手術前にカットした髪をくくり付けてポニーテールに見せようとしたりと、いろいろ悪戦苦闘していたんだけど、ふと思い付いて美容院に問い合わせたら、カツラのカットだってやってくれるというじゃないですか。かぶったまま行って、今度は前みたいに気を使わずに、始めから病気で脱毛したことを告げたら、たいへんリラックスした気分でカットしてもらうことができた。美容師によるとかつらはひっぱると動いちゃうから切りにくいらしい。もちろんシャンプーはできません。結局、カットはしたものの、あまり似合わないことには変わりないけど、まぁこれでいっかー。あとは満員電車で引っぱられて外れないことを祈るだけだ。


血盟編その2

 いよいよ慶応での放射線治療がスタート。土日を除いて毎日の通勤なので、一ヶ月分の定期を買ったら、なんと2万近くするではないですか。保険金が出た時は、こりゃ儲かったと思ってたけど、手術から後の治療がけっこう長引くことを考えると、あんまりのんきにしてもいられないぞ。初日はいろいろな準備もあるので、早めの通勤時間帯に出かけて、KO地下の放射線科へ。ここの案内看板はそっけなくて、始めて来た時は分かりにくくてうろうろしてしまった。うーん、KOでの近藤Dr.の地位を象徴してるのか?。受付も放射線科専用だし…と思ったら、でかい機械を上の階に持ち上げるのが大変なこともあって、たいていの病院では放射線科は地下にあるとのこと。なーんだ、よけいな勘ぐりしちゃったよ。まずは簡単な診察の後で、放射線を当てる位置を決めるために、胸に赤やら黒のマジックでマーキングだ。技師らしいにーちゃんが、袋の口をしばる針金入りテープの長いやつみたいなしょぼい道具を使って、けっこう慎重に書き込んでいく。最後はちゃんと近藤Dr.に確認をとってもらうところを見ると、かなり重要な作業らしい。そう言えば、さっきも誓約書を書かされたし、やっぱり放射線にはそれなりの危険があるのを再認識してしまった。ちなみにこのマーキングは、消すとメンドーなことになるので、お風呂に入る時などはゴシゴシ洗わないように気をつけなければいけない。それが終わると広い部屋に一人残されて、放射線を照射するリナックというでかい装置の上でジッと動かないで待つこと数分。青白い光線がほとばしって患部を突き抜けるなーんて、アニメみたいな迫力のシーンを期待してたんだけど、機械がジージー言うだけで、位置をかえてもう一回やったら今日の仕事はおしまいとなり、なんだか拍子抜けだ。リナック室に流れてる有線のクラシックも何となく間抜けだし。まあ、目に見えない方が逆に得体が知れなくて緊張するけどね。部屋の中を放射線が飛び交ってるかと思ったら、体がこわばって心臓ドキドキ、息が苦しくなっちゃった。そりゃ動かないようにと、やらなくてもいいのに息とめてるせいか。家に帰ったら、何となくいつもと違った疲労感があって、早くも放射線の副作用か!と思ったけど、良く考えてみたらン十年ぶりに通勤電車なんかに乗ったので疲れただけかも。でもそんなふうになにかあるたびに、病気や治療と関連づけて考えてしまうのが、乳ガン患者の哀しき性なんだな。

 翌日からは、予約してある時間までに放射線科受付に直行。ここで順番の札をもらい、前がはだけやすい着物を短くしたようなウエアに着替えてリナック室の前で順番を待つのだが、なぜか4番と9番の札がない。先端科学の現場で縁起かついでどーする、KO病院。でもロケットを打ち上げる時なんかでも、ちゃんとお宮参りするっていうくらいだからしょーがないか。リナックの機械もよく見たらお札が貼ってあったりして。ここにはもちろん他の病気の患者も順番を待っているんだけど、「これは…」と思った女性に声をかけてみると、たいていは乳ガン患者だ。なかには北海道や広島なんていう遠くからわざわざ来ている人もいるほど。うーむ近藤誠の名は全国に鳴り響いておりますな。まぁ、良くも悪くもだろうけど。しかし、それくらい納得できる治療をしてくれる病院は少ないし、いい医者の情報も見つからないってことなんだろうね。いろいろ聞いてみると、手術した病院も症状も人によって様々なので、情報交換で盛り上がる。病気が発覚した時もそうだったけど、やっぱり同じ乳ガン患者の話ほど参考になるものはない。今受けている治療についてはもちろん、将来の生存率や再発の危険性についてだって不安が一杯だし。照射が終わってしまえば、その日はもう用はないんだけど、毎日のように増えていく知り合いからもっといろいろな話も聞きたいので、しょっちゅう一緒にランチをすることになった。話してみるとみんなも抱えている不安は同じなので妙に安心してしまう。でもなかには、治療を受けるかどうか悩んでいるという話を、何度も振り出しにもどってエンドレスに続ける人や、こっちが食事しているのに、あれ食べちゃダメ、これは何に悪いという食事療法の話題をえんえん話す人なんかいて、まー他人のこと考える余裕がなくなってるのは分かるんですが、どーもドツボにはまっている場合が少なくないみたい。大枚はたいてサプリだ何だと、あちこちの診療所にかかってる人なんて、ほとんどドラ絵門の轍を踏んでるぞ。だいじょぶかー。「今日、近藤Drがすごく機嫌悪かったんだけど、嫌われちゃったのかなー、どうしよー。」「ああいう性格ですからねぇって看護士も言ってたから大丈夫。ガハハハハハ。」なんて話題で盛り上がっていれば、気楽で免疫力もあがると思うんだけどね。

 そんなことを続けているうちに、放射線治療も折り返しを過ぎるころには、何となくグループが出来上がって、一緒に近藤Dr.の講演会を聴きに行ったり、患者の集まりに参加するようになってしまった。なんだかミニ患者会みたいになってきたな。でもいろいろな人の話を聞いてみると、反面教師の存在も含めて、自分にとって大変参考になる。それにこの頃になると、そろそろ放射線の副作用か、かなり倦怠感があって、毎日長距離を通うのがしんどくなって来たが、情報を集めるのが楽しみなので苦にならないというメリットもあった。しかしこれって、病院の待合い室に集まって「今日は○○さんは来ませんねぇ。」「具合でも悪いんでしょうかねぇ。」なんて話してるバーさんと同じじゃないか。更年期から一気に高齢化へ一直線か?。


血盟編その3


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でいよいよけいおうへかよいはじめたの