11年5組 川上多岐理
台湾は、台湾本島と、大小79の島々からなる島国で、本島は南北377km、東西142km、面積33823平方キロである。ちょうど日本の九州よりも少し小さい大きさだ。しかし、その自然の多様さは九州の比ではない。島の中心部を走る中央山脈が、全面積の55.2%を占め、標高3000m級の高山が133峰も並ぶ。最高峰の玉山(新高山)は、日本の富士山よりも高い標高3997mである。台湾はユーラシアプレートにフィリピン海プレートが沈みこんで出来た島で、造山運動もヒマラヤの様に激しい。中央山脈等主要山脈の西側はだんだん低い山地となり、台地になる西側は平野が岸に沿って広がる。
島の南北中央やや南よりに北回帰線が走り、この島の北部、中部は亜熱帯、南部は熱帯圏に属す。全島4分の3を占める山岳地帯では、熱帯から亜熱帯と多様な気候で、標高3000mを超える亜寒帯では、冬季には雪も降る。また、この辺りはモンスーン地帯でよく雨が降る。
したがって植生も、熱帯降雨林帯から亜高山草木帯と多様であり、そのため、台湾全島に自生する高等植物は、なんと、3012種もあるという。その中でも特にカシ類とクスノキ科の常緑広葉樹が多い。日本の場合、カシ類は主に関西地方に多く、ブナは、本州のある程度標高が高い森にならどこでもあるが、台湾のブナは少なく、北部山地の2000m級のわずかな領域に限られる。代わりに、山地の高い所には、タイワンスギやベニヒなどの針葉樹が多い。
植物が多様ということは、当然、昆虫も多様ということになる。たとえば台湾に現在生息する蝶は400種で、そのうち約10%が台湾固有種だ。日本の蝶は325種いるが、日本の面積が370000平方キロで台湾の面積と比べると約11倍になり、面積当たりの種類数は、台湾の方がはるかに多い事が解る。
○台湾と日本の生物の成り立ちについて
世界中にはいろいろな生物がいる。国が違うと、そこに住む生物も違ってくる。たとえば、カンガルーはオーストラリアにはいるが、日本にはいない。では、国が違うとなぜそこに住む生物が違うのだろう。
ある地域に生息する動物全体を、「動物相」と呼ぶ。ある地域と、別の地域の動物相を比べたときに、共通の種が少なく、そこにはっきりとした動物相の区別が出来る場合を、「区系」という。世界にいる動物の分布を、この「区系」を使って、旧北区(きゅうほっく)、新北区(しんほっく)、エチオピア区、東洋区、オーストラリア区、新熱帯区の6つに分けることが出来る。カンガルーが日本に生息しないのはこの区系が、オーストラリアと日本ではちがうからだ。(地図・略)
世界の動物相の区系図
では、日本と台湾ではどうだろう。台湾は区系で言うとちょうど東洋区にある。(図より・略)それに対して日本は、旧北区と東洋区をまたいだところにあり、屋久島・種子島とトカラ半島の間にある、渡瀬線と呼ばれる境界を境にして、動物相が分けられる。(図・略)境界が近いため、台湾には、旧北区の要素も入り込んでいるが、それでも台湾と日本の動物相が異なるのは、旧北区を含んでいるかいないかの違いである。
しかし、このことだけでは、台湾の自然がなぜこれほど多様なのか説明がつかない。それについては、もう一つ付け加えておく必要がある。台湾とその隣にある孤島、紅頭嶼(現在の蘭嶼)と火燒島(現在の緑島)についてだ。(図・略)この島は、日本と比べれば遥かに台湾と隣接している地域にも関わらず、台湾本島と動物の種類が異なるものがいる。二つの地域同士が隣り合っているのに、そこに住む生物の特徴が違う時、そこには、何らかの区系の違いがあると考えられる。実は、台湾より南の、ボルネオ島とスラウェシ島・フィリピン諸島、バリ島とロンボク島を境に、東洋区とオーストラリア区を分ける、ウォーレス線と呼ばれる境界があった。(図・略)この線は、後に訂正され、台湾と紅島嶼の間から、さらに台湾と火燒島の間にまで延長されることがわかった。つまり台湾とこの二つの島の間には、動物相を分ける境界があったのである。したがって、台湾の動物相がなぜ複雑なのかというと、台湾が、動物相を分ける2つの境界線の近くにあり、旧北区とオーストラリア区の影響を受けているからだと言える。
台湾と日本の動物の比較
<共通するもの>
ツキノワグマ、イノシシ、イタチ、カモシカ、シカなど
<台湾のみに生息するもの>(写真・略)
タイワンザル、クロオリス、タイワンウンピョウ(絶滅)、カオジロムササビ、キョン、サンバー、マングース、センザンコウなど
<日本のみに生息するもの>
ニホンザル、ムササビ、タヌキ、キツネ、オオカミ(絶滅)、ノウサギなど
台湾と日本の昆虫(チョウ)の比較
<共通するもの >(写真・略)
アゲハ、クロアゲハ、オオムラサキ、オオゴマダラ、シータテハ、ミドリヒョウモン、モンシロチョウ、アオスジアゲハなど
<台湾のみに生息するもの>(写真・略)
アサクラアゲハ,カバシタアゲハ,キシタアゲハ,,オオベニモンアゲハ,ワモンチョウ、ララサンミツオシジミなど
<日本のみに生息するもの>
ギフチョウ、ウスバシロチョウ、ゴマダラチョウ、ツマキチョウ、ベニシジミ、ミヤマセセリ、など
◎台湾にいる生物はどこから来たか?
大昔、台湾は今と同じ姿ではなく、プレートテクトニクスの働きにより、中国、日本、フィリピンなどと何度も離れたり、くっついたりを繰り返し、今のような姿になった。台湾が中国とくっついたときには、ヒマラヤから中国西南部の生物がはいり、フィリピンとくっついていたときには、フィリピンからマレイ系のものやメラネシア系の生物がはいり、いまの日本の沖縄の部分とつながっていたときは、日本の生物がはいってきた。その後、氷河時代の最後となるころに、大陸と隔離され台湾ができた。そうして、今の台湾の動物相が出来上がったと考えられる。やがて氷河期が終わると、北方系のものは,温度がだんだん高くなって行くに従って,高山地帯へと追いやられた。
台湾と日本の地図
(1000万年前、500万年前、100万から50万年前、12万から1,5万年前の地図・略)
◎蛾ではどんな違いがあるか?
ヤママユガ科の生息地域について考える
<大陸と台湾と日本で共通するもの>
クスサン・・・日本から中国大陸、台湾、シベリア南東部と幅広く分布する。
ヒメヤママユ・・・日本、朝鮮、シベリア南東部、中国からモンゴルに分布し、台湾にも生息する。
ハグルマヤママユ・・・インド、マレーから中国南部、台湾に分布し、日本では、奄美大島と沖縄本島に生息する。
ヨナクニサン・・・インド北部からベトナム、マレーシア西部にかけての東南亜熱帯に生息する。中国大陸、台湾にも生息する。日本では、石垣、西表、与那国島で見られる。(写真・略)
<台湾と日本で共通し、中国大陸には生息しないもの>
ヤママユ・・・日本では、北海道、本州、四国、九州、対馬、屋久島に分布し、北朝鮮や台湾にも生息する。中国大陸には生息しない。
<大陸と日本で共通し、台湾には生息しないもの>
ウスタビガ・・・日本から中国北部、ロシア東部に分布する。
クロウスタビガ・・・シベリア南東部から、中国大陸、朝鮮半島を経て日本にまで分布する。
シンジュサン・・・日本から中国東北部、インド・マレーにまで分布する。台湾に生息するのは、輸入したもので、もとからいたものではない。
オナガミズアオ・・・シベリア東南部から中国東北部まで分布する。日本にも生息する。
オオミズアオ・・・シベリア南東部から中国北部まで分布する。日本にも生息する
エゾヨツメ・・・ヨーロッパから日本までユーラシアの北部に分布する。(写真・略)
<台湾のみに生息するもの>
アカサクサン・・・台湾特産種。(写真・略)
○これらの事から言えること
大陸と台湾と日本で共通するもののうち、ヨナクニサン&ハグルマヤママユは南方系、クスサン&ヒメヤママユは北方系に分けられる。
大陸と日本で共通し、台湾には生息しないものは、すべて北方系になっているので、これらのものは、大陸移動の際に、台湾が温暖な気候だったために、住み着くことが出来なかったものだと考えられる。
台湾と日本で共通し、中国大陸には生息しないものについて、ヤママユは北朝鮮にも生息するので、中国経由ではなく、つながっていたときに日本からわたって来たものだと考えられる。
台湾のみに生息するものについて、アカサクサンは台湾で独自に進化したと思われる。
台湾の生物は、北方系のものもいるが、北方系のものが南方系のものより圧倒的に少なく、全体的に南方系の影響を強く受けていることがわかった。
それに対して、日本の生物は、南方系のものもいるが、北方系のものが南方系のものより多く、全体的に北方系の影響がある。
このことからも、台湾は東洋区のみの場所にあり、日本は旧北区と東洋区をまたいだ所に存在し、その旧北区が締める割合が多いということがわかる。
台北市の絶滅種
台北市の開発により、以前は見られたハナジカやアユが都市周辺では見られなくなった.植物の種類も,紅楠、魚木、合歡、竹林等が消え,それによって昆虫の種類も激減した。たとえば蝶をあげると、30年前は見られた、オオベニモンアゲハ、オオルリモンアゲハ、ワモンチョウ、ツマベニチョウなどが今は見られなくなった。そのかわり、わずかな自然の中でも生きられる、リュウキュウムラサキ、カバマダラ、イシガキチョウなどが残った。今、台湾では、こうした環境破壊が深刻になっている。
☆台湾の自然について考えたこと
台湾の生物の成り立ちには、渡瀬線と、ウォーレス線の、2つの境界が関係し、さらにかつて、大陸の移動の際にわたって来た動物が独自に進化を遂げたことが深く関わっていることがわかった。この様に、地域ごとの動物相の特徴を導きだし、区系を分けることによって、生物の成り立ちについて深く追究する学問を、生物地理学という。台湾で、この分野の研究の先駆け人となったのが、鹿野忠雄であった。鹿野忠雄(1906〜1945年)は、動物や昆虫を中心に採集し、並ならぬ興味と行動力をもって、台湾の未開の地に足を踏み入れ、生物地理学だけでなく、民存学の分野でもその名をおおいに世界に轟かせた人物だった。ある時鹿野は、紅島嶼と火燒島にはいるカタゾウムシというゾウムシの仲間が、台湾本島にはいないということに初めて気が付き、当時はまだ、ボルネオ島・フィリピン島とスラウェシ島までにしか引かれていなかったウォーレス線が、台湾と紅島嶼・さらには火燒島の間まで延長されることを初めて提唱した。鹿野が生物地理学に引かれた訳は、この学問にある、生物が成り立つまでに、どのような経路をたどって来たかを考えるという、一種の探偵的な部分にその面白さがあったからだろう。
私は台湾へ行ったら、向こうの蛾の研究をしている学生と、共に交流して蛾の採集をしたいと思っている。その中でも、特に日本とは違った特徴を持った蛾と出会いたい。そのことを通して、日本には無い、台湾の自然の、複雑で奥が深い所をじっくりとたのしみたいと考えている。
参考文献
「興萬物共享自然」周清標 台北市環境緑化其金會 中華民国85年発行
「台湾に魅せられたナチュラリスト 鹿野忠雄」 山崎柄根 平凡社 1992年発行
「森林文化 グリーン・パワー」 森林文化協会 2002年発行
「月刊むし」 月刊むし社 昭和54年発行
「原色台湾蝶類大図鑑」 保育社 昭和35年発行
「NHK地球大紀行」 NHK取材班 日本放送出版協会 昭和63年発行
「海をわたった蝶と蛾〜東アジアの鱗翅類〜」 大阪市立自然市博物館 1999年発行
「Anima」 平凡社 1991年発行
「Saturniid Moths of Southeastern Asia」 Richard S. Peigler &
Hsiau Yue Wang 台北省立博物館 1996年発行
「科学朝日」 朝日新聞社 1989年発行
「決定版 生物大図鑑 動物」 世界文化社 昭和60年発行
「植物の世界」 朝日新聞社 平成8年発行
「日本産蛾類大図鑑」 井上寛他 講談社 1982年発行
注)写真・地図については、文献より転載したため、サイト上では省略
(2004年8月提出)