『Some Best Friend You Turned Out To Be』 (2000/Domino/LP)

デビュー・アルバムにして最もクールでスタイリッシュですらある作品。まだ歌は唄ってなくて、マシュー・ハーバートの諧謔とトータスらのポストロックの洒脱をくぐり抜けてきた2000年を象徴するサウンド、というのが当時アナログ盤で聴いた印象だったのだけど、改めて聴いてみたら、何だかサン・ラーやキャプテン・ビーフハートみたいに聞こえたのは、時の経過と共にいろんなものがリセットされ、かつ熟成されたからだろうか。2000年代の徒花的サウンドだったのかもしれないが、ヴィンテージな魅力も醸し出し始めているサウンドに聞こえたというのは、やはりこのアルバムが時の流れに耐えうるだけの魅力を持っていることの証左だろう。 (原雅明)


 
『Mastered By Guy At The Exchange』 (2002/Domino/LP)

「MBGATE」から「Lysine」に移る瞬間「いいつなぎだなあ!」と声が出た。倍速、倍々速、冷たく燃えさかるリズムがぎくしゃく入れ替わる一方で、どの曲にも体を委ねることのできるゆったりとしたうねりがある。実はマックス、メロディ・ラヴァーだ。あ、いまマイケル・ジャクソン、あ、トッド・ラングレン、プリンスも見えた。見えたけど、どれにも聞こえない。そして曲のつなぎが断然いい。通して踊れる。踊ると、こちらを脱臼させかねないすばやい凸凹、勝手なループ、早口な歌に面食らう。ところが生身の動きは、その凸凹、ループ、早口を得てますますよく踊る。つまずきがうねりのエンジンであるかのように。 (細馬宏通)


 
『Parallax Error Beheads You』 (2008/Domino/LP)

確かに3曲目「Which Song」などはスクリッティ・ポリッティを思わせる。だが、音の仕上がりはそうでも、この6年ぶりの作品でマックス・ツンドラの目線は構築された音作りにのみ向かっているわけではない。本作は丹念に作り込まれた知性溢れる作品だ。が、一方で本人による歌を軸にした奇妙でポップな面も持っている。アルバム・タイトルにある“Parallax=視差”という言葉に現れているように、ここでマックス・ツンドラがやろうとしたことはその目線の差をなくすことにあったのではないか。具体性を持った専門的解釈と、よくわからないけど面白いという解釈の間に差を持たせるのが00年代も終盤に入った今、いかにナンセンスかということを本作は告げている。 (岡村詩野)


「Children At Play」 (1998/Warp/EP)

ワープ・レコーズからのリリースとなったキャリア初のシングルで、両サイド合わせて25分10秒もある。エイフェックス・ツインの一派が得意としていたドリルン・ベースをベースに、インプロ風のシンセ・ソロや接触不良の音に聴こえる電子音など規格外の音を次々と繰り出し、タイトル通り、子どもが転げまわっているような情景を浮かび上がらせる(エンディングのコーラスはアンドリュー・ポッピー「ジ・オブ ジェクト・イズ・ア・ハングリー・ウルフ」のサンプリング)。カップリングはさらにチョコマカと忙しい「クライヴのバカ」で、レイディオ ヘッドやエールなどメランコリックなムードが増大し始めていたことにまるで気がついていないところがポイント高かった。 (三田格)


 
「QY20 Songs」 (2001/Domino/EP)

おもちゃ箱を引っくり返したような、という印象批評におけるクリシェがあるが、研究の精度を高めるならばおもちゃの種類や箱を持ち上げる際の手付きに着目する必要があるし、文学性を求めるならば、何故、引っくり返すに至ったかという物語を想像するのもいいだろう。本作は、おもちゃ箱を引っくり返した系として評価が高い作者があえて、ひとつのおもちゃ=ヤマハのオールインワンのシーケンス・マシーン、QY20のみを使うという縛りを課したシングル。 (磯部涼)











ある意味で、ディスコグラフィー以上にマックス・ツンドラ(以下MT)の“ミュージシャンズ・ミュージシャン” “Electro-Pop Crazy Genius”らしさの証明となりうるのが、リミックス/カヴァー・ワークの数々である。Warp、Dominoと名門レーベルを渡り歩き、みずからラジオ番組を担当するほどのミュージック・ギークらしく、オフィシャル仕事から個人的な趣味まで、実に多彩な顔触れを手掛けている。そこからいくつかピックアップし、彼の魅力とルーツを少しマニアックに掘り下げてみよう。ちなみに音源は現在、本人のsoundcloudで試聴/DL可能である。

彼のデビュー作より早い98年にリリースされたモグワイのリミックス・アルバム『Kicking A Dead Pig』(1)に収録の「Helicon 2」では、メランコリックな旋律の印象的な原曲のイメージを残しつつ、耳つんざくノイズと牧歌的な鉄琴の音色が交互にループ。ミッシー・エリオット「The Rain」の曲後半で聴かれるブレイクコア的な展開や、kid 606「Five Minutes, Five Seconds」(『kid606 and friends vol.1』(2)収録)での叙情的チルアウトと同様、エイフェックス・ツインのフォロワーとして紹介された初期のMTらしい実験的サウンドが展開されている。バンド・サウンドの再構築もお手のもので、その代表例といえばレーベル・メイトであるフランツ・フェルディナントの「Do You Want To」。同リミックスが収録されたシングル『Fallen』(3)のA面ではジャスティスによるお得意の暴力的エレクトロがさく裂されているが、それとは好対照のチープ&カラフルなシンセ・ワークが冴え渡り、キャッチーで80's感あふれる原曲に独自の変態性を付与している。ひねくれポップ愛好家であるMTはXTCももちろん大好きで、アンディ・パートリッジとは過去にTwitter上で風流なジョーク合戦も繰り広げた仲。フューチャーヘッズによるXTCチックな英国ギター・ポップ「Decent Days And Nights」(同タイトルのシングル(4)に収録)はカンタベリー風な(後期XTCも少し連想させる)室内楽風サウンドを纏い、かたや現代を代表するチェンバー・ポップの雄であるオーウェン・パレットの「Midnight Directives」はアーバンR&Bへと生まれ変わっている。MT曰く、「リミックスとは新しいコスチュームを着せること」だという。

ほかにもリリー・アレンペット・ショップ・ボーイズといったビッグ・ネームの曲も手掛ける一方で、通好みな面々のリミックスも興味深い。そのなかでも筆者がベスト・ワークとして強く推したいのは次の2曲。アリエル・ピンクとも縁のあるナッシュヴィル在住のエレクトロ・ソウル・デュオ、Jensen Sportagの「Cocktease」は原曲をよりアッパーで煌びやかにさせ、フューチャリスティックなエレポップへと昇華させている。MTの妹、ベッキーも在籍するスコットランドの純朴なフォークトロニカ・バンドTunng(タン)による「Bullets」は、感動的な泣きメロをシンセのコーティングとテンポアップでより引き立たせた至高の一品だ。他にここ最近では、バカテク女ギタリストことマーニー・スターン「The Things That You Notice」(5)(ジャケでも共演!)、ソロ・ピアノ集の第二弾も話題の伊達男、チリー・ゴンザレスによる「You Can Dance」など、一筋縄でいかない個性派たちの曲をみごと自分自身の色に染め上げている。9/23(日)に渋谷2.5Dで共演するtomadも「ベタだけどこれがいいんだよね」とお気に入りなフレディ・マーキュリー「I Was Born To Love You」も見逃せない。

リミックス以上にMTのルーツが浮かび上がってくるのがカヴァー。15歳のときにKLFをカヴァーしたのは有名な話だが、ポール・マッカートニーが80年当時ニューウェーヴに触発されて産み出したテクノ・ポップ「Coming Up」(シングル『Cabasa』収録)もグシャグシャに脱構築されたぶっとびダンス・チューンとなっている。ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の挿入歌である「So Long Farewell」(シングル『Will Get Fooled Again』収録)はコミカルに変貌してライヴでも定番のナンバー。プログレ/変拍子メタルのファンでもあるMTがこよなく愛するバンド、カーディアクスの「Will Bleed Amen」は、中心人物で療養中であるティム・スミスの救済を目的とした2010年のアルバム『Leader Of The Starry Skies』に。MTはピッチフォークの00年代ベスト・アルバム特集でダフト・パンク『Discovery』を“人生と音楽性を変えたレコード”として一位に挙げているが、ヴォイス・パーカッションとチープなキーボードによるハンドメイドな「Digital Love」には昨今のチルウェイヴに通じる趣きもある。同じ6月7日生まれ(!)であるプリンスから歌唱スタイルも大きな影響を受けているのは、「I Wanna Be Your Lover」のカヴァーを聴けば一目瞭然。その歌心が前面に出ているのが、80年代ディスコの徒花であるテイラー・デーンの「Tell It To My Heart」。ここでは珍しくギターを掻き鳴らしながら朗々と歌い上げており、後ろで鳴るヘッタクソなドラムもまた素晴らしい。そして、YouTubeにアップされた今をときめくラナ・デル・レイの代表曲「Video Games」のキーボード弾き語りは、英国紳士らしい気品を覗かせる美しい名演である。

最後に、MTの広大すぎるバックグラウンドの一部を全51曲69分でドタバタ駆け抜けてプレヴューするMIDI音源のメガミックスも紹介しておこう。スティーリー・ダンからマドンナにバッハ、イエスにダーティー・プロジェクターズまで情けない音色となって一堂に会し、聴く者の脳内をセブンイレブンへといざなってくれる。手笛もお上手で前回来日時の公開インタヴューでは、お約束のパフューム「ナチュラルに恋して」を吹いてくれた。もしライヴ会場で彼を見かけたら、サインといっしょに一曲リクエストしてみるのもいいかも。 (小熊俊哉)