小熊:来日公演は今回で3度目ですよね。日本についてどんな印象をもっていますか?


マックス・ツンドラ(以下M):実は日本を訪れるのはこれで5回目なんだ。震災のことや放射能で大変だというニュースはロンドンでも聞いていたから、今まで以上に強い気持ちで再来日を望んでいた。日本はいうまでもなく素晴らしい国。友達もたくさんいるし、オーディエンスも最高!演奏中に喋ってたり俯いてたりiPhoneいじってたりするお客さんがロンドンでは少なくないけど、日本の皆さんは凄く集中してステージを観てくれる。だからライヴも楽しみにしているし、また来ることができて本当に嬉しいね。

小熊:あなたはTwitterを趣味と呼べるほど活用していますよね。震災の際にも「日本、私はあなたを愛しています。」とツイートしてくれていたのが印象的でした。あなたの日本語ツイートはその不慣れさもあって、一部に熱狂的なファンを生んでいます。どうして日本語を勉強しようと思ったんですか?


M:えっと、正直に告白するね。Twitterで使っている日本語はズルしてるんだ(笑)。実はGoogle翻訳を使っているんだけど、皆さんもご存じのとおり信頼度の高いツールだとはいえないよね。だから、まずは言いたいことをGoogle翻訳を通して日本語にして、それをコピペしてまた英訳しなおす。そうすると意味不明の酷い英語が出てくるから、何度か微調整して、それでやっと「ガイジンが喋ってるカタコト日本語」が完成するんだ。で、ツイートすると。

小熊:マックス・ツンドラさんのオモシロ日本語ツイートはこちらでたくさん読めるのでぜひチェックしてみてください。ちなみに、一番好きな日本語のフレーズはなんですか?


M:(流暢な日本語で)田中さんは弁護士ではありません!

岸野:なんでそれなの(笑)?


M:音楽制作などで忙しくなってさっき話したズルをするようになったんだけど、それ以前はきちんと日本語を勉強してたんだ。講談社から出ているビジネスパーソン向けの日本語教則本を使ってたんだけど、一行目がまさしく「田中さんは弁護士ではありません。」でさ。それがヤケに頭に残っちゃってるんだ(笑)。

小熊:なるほど(笑)。ところでマックス・ツンドラさんは日本の音楽についても造詣が深いんですよね。ピッチフォークの2000年代ベストアルバム特集で、ダフトパンクやコーネリアスなどと一緒にニール・アンド・イライザ[*1]を挙げていたり、ご自身が選曲されているラジオ番組[*2]では松前公高さん[*3]の特集も組まれています。そういった情報はどのようにして入手されているのでしょう?


M:何か特定のソースがあるわけではなくて、インターネットで探したりレコードを買ったりしてチェックしているよ。松前さんに関しては、Nord Lead 3というシンセがあるんだけどそれのホームページにあるデモのひとつを彼が作っていたんだ。で、名前を検索して曲を聴いてみたら「こんな変な音楽を作る人がいるんだ!」と衝撃を受けて。ブリットポップのように自分の状況がいかにクソか歌っているギターロックには飽き飽きしていたところで、コード進行やメロディなどが洗練されていて新鮮味がある渋谷系や日本のポップスに心惹かれていった。実際に自分の曲のいくつかは日本のアーティストの影響を受けていると思う。

岸野:ほかには誰が好きですか?


M:イルリメだね。グルーヴもあるしキャッチーで凄く好きだよ。ぼくのリミックスも過去にやってもらったんだ

小熊:日本の音楽からも影響を受けているという話でしたが、日本にもマックス・ツンドラの影響を受けている方たちがいるようです。Perfume「ナチュラルに恋して」とあなたの「Which Song」の近似性に日本のファンも注目しています。web上にもこれらをマッシュアップした音源がアップされていますが、Perfume本人たちやプロデューサーの中田ヤスタカ氏にはどのような印象を抱いていますか?


M:Perfumeはサウンド・プロダクションが本当に優れていると思う。こんなに挑戦的な音楽が日本でビッグセールスをあげている状況は興味深いよね。あのマッシュアップはぼくが作ったものではなくて、日本人の誰かがURLを教えてくれたんだ[*4]。それでPerfumeを知って他の曲も聴いてみたんだ。イギリスのレーベルに持っていっても「これは売れないよ」と突っぱねられるだろうけど、地球の反対側ではバカ売れしていると聞いて日本に引っ越そうかと思ったね(笑)




岸野:では、ここからはマックス・ツンドラのバックグラウンドを掘り下げていきましょう。


小熊:幼いころからピアノを学んでいた一方で、1991年当時にはイギリスの有名なシューゲイザー・バンドであるラッシュのファンジンも作っていますよね。


M:ピアノを習っていたのはたしかなんだけど、そこまで熱心に通っていたわけでもないんだ。シューゲイザーというジャンルの括りにはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインを筆頭に色々とバンドがいるわけだけど、そのなかでも特にラッシュの大ファンだった。ファンジンはライブ会場の外で手売りしてたんだけど、PDFでアップしてツイートしてみたら当時売り上げた何十倍もダウンロードされたよ。

小熊:現在はエレクトロニック・ミュージシャンとして活動されていますが、いったいどんな青春時代を過ごしてきたんですか?


M:泳げないしバイクも乗れなかったしスポーツも好きじゃなかったし、紛れもないインドア派だった。当時自宅にはパソコンはなかったんだけど、おばあちゃんのキッチンテーブルに座ってプログラミング言語を家で手書きして学校に持って行き、実際にパソコンで打ち込んでみてプログラムを発動させていた。その後はコンペの賞品でパソコンもゲットしたけど、それまではずっとペンを片手に作成していた。そんな子どもだったね。

小熊:15歳のときにKLFのカヴァーを手がけたと聞いたんですが、そのプログラミングもすべて一人で手がけたんですか?


M:そうだね。当時の機材を今も使っているし、KLFのカヴァー[*5]は今でもライヴのセットリストに加えることもあるよ。

小熊:ちなみに、その当時はどんな髪型をしていたんですか?


M:髪の毛はもっとあったよ(笑)。当時はジョン・トラボルタみたいなオールバックにしてた。あんまりハゲで有名になるのは不本意なんだけど……。(通訳の髪を触って)君の髪が羨ましいなぁ。

小熊:楽曲制作について質問します。いつもどういったところからインスピレーションを得ているのでしょう?


M:どこからなのか自分でもわからないな。目を覚ましたときに頭のなかで音楽が鳴っていることがあって、そのときは急いで機材の電源を入れて、忘れないうちにデモを作るようにしているよ。

小熊:普段はどういった一日を送っているんですか?


M:朝起きたらまずはTwitterをチェック。朝食を作ったらTwitterをチェック。シャワーを浴びたらTwitter。ビスケットと紅茶とともにTwitter。ランチの買い物中も携帯片手にTwitter。終日ずっとTwitterに付きっきり。「あれ? 音楽やってないじゃん」と思われるかもしれないけど、そもそも一日がかりでレコーディングや制作に取り組む方が珍しくて、それというのもTwitterをやっているからなんだ。

小熊:現時点での最新作『Parallax Error Beheads You』(2008年)は制作に6年の歳月を要していますが、あなたからTwitterを取り上げていたらもっと早く完成したかもしれないということですか?


M:(恥ずかしそうに)イエス。誰か助けて。パスワード勝手に変えて。

小熊:最初のアルバム『Some Best Friend You Turned Out to Be』(2000年)はインストゥルメンタル作品ですが、つづく『Mastered by Guy at The Exchange』(2002年)では歌もの志向に目覚めていますよね。どうして歌やダンスを人前で披露することにしたんですか?


M:歌ったり踊ったりは常日頃からやっていることで、作風が切り替わったのはアルバム・コンセプトの違いが大きいんだ。最初のアルバムでは実験的でどのジャンルにも収まりきらない音楽を探求していったけど、二作目はそれとはなるべく違うものを作ろうと考え、それでヴォーカルを導入することにしたんだ。

小熊:二作目では妹のベッキーもヴォーカルで参加していますよね。彼女はTunngというバンドのメンバーとしても活躍していますが、日ごろから仲良くしているんですか?


M:親友のように仲良くやっているよ。『Mastered by〜』では妹を主役のようにフィーチャーしたけど、ぼくがもっと歌えるということを示したかったから『Parallax〜』では自分の歌声しか使わなかっただけ。険悪になったりは全然してないよ。




岸野:マックス・ツンドラはリリースについても実験的な取り組みをしていますよね。


小熊:三作目の『Parallax〜』はCDやアナログ盤のほかに缶詰でも限定リリースされていて、中身はチキンスープで楽曲をダウンロードできるようにmp3コードもついています。スープの調理や缶詰を制作する様子はYouTubeで視聴できますが、このスープはどんな味がするのでしょう?


M:写真にはとても具沢山で美味しそうなスープが映っているけど、これは義理のお母さんの手作りなんだ。近所のスーパーで売ってる一番安いスープとたぶん同じ味がすると思うよ。期待するとガッカリするから絶対に開けないでね(笑)。

岸野:スープ缶で売って音楽がオマケでついてくる、ダウンロードキーがついてくるというのは斬新な売り方ですよね。


小熊:どうしてこういう企画を思いついたんですか?


M:所属しているレーベル(Domino)から何かやろうと提案があったんだ。どうやったらファンに音楽の対価を支払ってもらい、そのことに満足感を与えることができるか考え抜いた末の企画だね。買えばmp3だけじゃなくてスープもついてくる。お得でしょ? でも開けないほうがいいよ(笑)。

小熊:CDが売れなくなっていく一方で、YouTubeやUstreamなど新しい発信形態も日々整備されています。あなたも「Will Get Fooled Again」(『Parallax〜』収録)でmyspaceやeBayを歌詞でネタにしていますが、将来の音楽業界についてどんな考えをお持ちですか?


M:将来のあり方については正直ぼくもわからないけど、考えられるのは大手のレーベルが一歩引かざるをえないだろうということ。ああいったレーベルはファンが求めているものを必ずしも理解してなかったりアーティストの邪魔になることもあるからね。それだけなら明るい未来ともいえるけど、一方で違法ダウンロードされることでアーティストがお金をもらう機会が減っていることは悲しくも思う。将来はミュージシャンが兼業で生活費を稼ぐのが当たり前になるのかもしれないね。

小熊:現在は新作を鋭意制作中と聞いていますが、制作費を募るためにユニークな試みに取り組んでいると聞いています。


M:Fiverrというサイトでオファーを募ることができるんだ。「あなたの企業のロゴをケーキに焼いてあげます」、「宣伝の看板を東京駅で一時間掲げています」、だから5ドルください……みたいな感じで。そのサイトでぼくも色々とおかしなタスクを提示しているんだ。「飼い猫のミーナに餌をあげるとき、あなたの名前を心を込めて色っぽく囁くよ。だから5ドルちょうだい」とかね(笑)。お金がないからそういうところで着々と制作資金を稼いでいる。

小熊:次に出る新作はどんな内容になりそうでしょう?


M:新作は二枚同時に出すつもりでいる。ひとつは過去三作の流れを継承したマックス・ツンドラ印のアルバム。前作よりも突飛で色んなアイディアを盛り込んだ音楽を作るつもりでいる。もうひとつはゲスト・ヴォーカルを招いてチャートや売れ線を意識したアルバムにする予定。それら二枚を同時リリースすることでそれぞれのリアクションを見るのが今から楽しみだよ。