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食と酒と男と女 俗に飲む・打つ・買うというのは男の特権であった時代の話である。 古来より酒には肴(酒菜)という物があり、飲酒は食事の前と相場が決まっていた。 私たち等と言うと叱られるかも知れませんが、古い時代の男たちの仕事は肉体労働が主体で、一日が終わると、酒をあおり、少しばかりの食事の後、綿のように眠るのが相場であった。 安い給料と粗悪でも高価な酒は家庭を蝕み、このころの家庭崩壊は酒が大きな役割を担っていた。 酒は、このころの女性にとって一つの敵だったかも知れない。 当然のこととして長い間女性から酒は嫌われ続けてきた。 貧しい家庭を支えるために、女性とりわけ主婦が働く場所は、町工場等より青空の下で働く「よいとまけ」のような日雇い労働がその主なもので、外で働くことの出来ない者は、内職と言う形で家計を助けていた。 子育て、亭主の世話、日雇い労働や内職など、そして家計のきりもりと主婦は、表に出ることなく、縁の下の力持ちとして家庭を支えていた。 この頃当地にも農家が沢山あり、農家の貧困は目に余るほどで、丁稚の私から見てもここに暮らす「女性たちに幸せって何が有るんだろうか」と常々考えさせられていた。 夏も終わりに近い午後、前触れもなく大きな雷鳴とともに激しい夕立に見まわれた。とっさの雨宿りにと辺りを見回したが格好な場所が見つからず、裏通りから奥まった農家の軒下へ駆込んだ。 俄かに巻き起こった風にあおられた雨脚は飛沫となって容赦なく軒下にも吹きつけ、頭から足の先までずぶ濡れになった。形ばかりの雨宿りは濡れた体の体温を奪い、唇は紫色になっていた。 暖を求めて家の中をうかがうが暗く、人の気配は感じられなかった。 断りもせず軒下深く土間の入り口まで入り込み夕暮れのように暗くなった雨空を見上げていると、激しい雨音の中にで何処からか声がした。 「ひどい降りになったの、そこでも濡れるぞ、中に入られ」 誰も居ないと思い込んでいたので、何処から声を掛けられたのか分からず、あたりを見まわしているとすぐうしろから、声を掛けられたのだった。 「早く中へ入って戸を閉めなされ」 背中の声に驚いた私は、振り向きざまに頭を下げ、軒下に居ることを誤解されぬよう、大きな声で 「済みません、断りもなしに駆込んで雨宿りさせてください・・・」 頭を上げると、光が差し込むところまで出てきたその家のちゅうお婆ちゃんが、土に汚れた真っ黒い手で半ば曲がった腰を後ろ手でたたきながら 「そこに居ても濡れるぞ、入って戸を閉め」 「はい、有難う御座います」 激しい雨の跳ね返りを受け濡れた比較的高い敷居を跨ぎ私は、土間の中へ入り戸を閉めた。 この続きはまた・・・ |