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小説「マイクのリクエスト」

作/ガリンペイロ

かつて、各紙に「マイク・タイソン逮捕される!」の見出しが踊った。
衝撃の報道だった。
しかし、この記事の中にアトランタ・アメリカ連邦刑務所に服役したという事実を見逃した人は多かっただろう。
これは偶然なのだろうか。あのゴルゴ13への連絡人であるマーカス・モンゴメリーのいる刑務所に入ったことは・・・

PART 1 密議

「ここでおとなしくしてろ!」
看守がタイソンに冷たく言い放つ。
かつての世界チャンピオンがなぜ、こんなことになったのだろうか?
これには、誰もが思いもしなかった筋書きによるものであった。
それは、タイソン逮捕の一ヶ月前のこと。

「私の計画にはこの男が邪魔になる・・・」
と1枚の写真を見つめながら語る。女の声だ。
「ならば、消してしまえ。」
もう一つの声が、答える。こちらは、初老の紳士だ。
「こいつは、腕利きのSPに完璧にガードされている・・・もし、下手なことをして事が明るみに出ては、こっちの命取りにないかねない。」
と、尻込みする。
「ならば、不可能を可能にするやり方がある。」と、男がボソッと独り言のように語る。
「もしや・・・」
「そう、Gに依頼すればよい。」
「しかし、あなたが依頼するとなれば、おのずとこの国の、いや、他国の諜報機関にも情報がもれるのでは・・・」
「そこが問題だ。通常のルートではCIAをはじめ、KGB、モサド他各国の注目にあい、私が動いたことをしられるようになっては困る・・・なんとかして極秘に依頼ができないものだろうか・・・」
「誰が依頼したかわからなければ問題はないのでは・・・」
「む、確かに外部に依頼元さえ悟られなければ・・・わたしはかまわない」
「それならば・・・」
ホワイトハウスの一室での密談は続いた。

PART 2 依頼

「と、いうわけだ・・・」
と男は計画の全貌を話した。
「・・・・・」言葉が出ないタイソン。
「逮捕後、出所後の君の身分はこの私が保証する。ちょっと別荘に骨休みするつもりで引き受けてくれたまえ。」
静かに話しているが、右手には拳銃が握られている。
「わかった、」と、あきらめた表情で承諾するタイソン。

そして、シナリオどおりタイソンは婦女暴行の罪で逮捕されたのであった。
裏には大掛かりな陰謀が潜んでいたことは、誰も気づいていない。
そして、逮捕後タイソンは一人の男に接触した。
と、いっても看守の目を盗み、一枚のメモをあの男の部屋に入れただけではあるが。
そこに記されていた内容は、「賛美歌13番をリクエストしてほしい」というものであった。もちろん受取人は、マーカス・モンゴメリーだ。
そして、数日後NBCの「夕べの祈り」でその曲が流れた。

PART 3 接触

数日後・・・刑務所の面会室
「ライリー叔母さんが心配していたぞ・・・」東洋系のがっちりとした体格の男がタイソンに語りかける。彼の名はデューク・東郷。
「・・・・・」タイソン。しかし、そっと、両手をガラスに押し当てた。
面会人は、その真意を瞬時に察知した。
彼の両手のひらには依頼の内容が書かれていた。
その後、二人はたわいもない世間話をして対談を終えた。

PART 4 実行

あれから何ヶ月経過しただろう。
ターゲットが依頼内容どおりに行動するまで、彼は待ち続けた。その条件とは、「ターゲットは飛行機好きだ。プライベートでフライトした時、事故に見せて始末してほしい。」だった。
標的のフライトコースはすでにキャッチしている。
彼は、密かに標的となる人物の自家用機に忍び込んだ。
数時間後、その機は離陸した。後は実行のタイミングだけだ。
脱出、事故に見られる状況設定を考え、目撃者のいない洋上で暗殺後パラシュートで脱出することとした。
数十分後、背後の異様な気配を察して振り返るパイロット。
何を隠そう、彼こそ先ごろ謎の死をとげた J・F・K Jr.その人であった。
そして、彼が言葉を発するまもなく銃口は火を吹いた。

PART 5 休養

事件に騒然となる周囲をよそに彼は成田空港に到着した。
しかし、どうも様子がおかしい。
右手がかすかに震えている。
入国手続きもあせってる様子ではあったが、スムーズに終えることができた。
そして、ロビーにつくなり、いきなり右手を上着の内ポケットに入れた。
彼をマークしていた諜報員は尾行が察知されたものと思い、一瞬、死を覚悟した。
だが、目にも止まらぬ早業で取りだしたものは、シガレットケースだった。
そして、トルコ葉のトレンドに火をつけた。
まるで農作業も一段落して一服してるおじさんが、キツめの煙草を吸ってるように、とても幸せそうに、恍惚とした表情を浮かべ、そして、「国際線で禁煙とは、不便なものだ・・・」とつぶやき、レンタカーを駆って空港を後にした。

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