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小説「東郷の黄昏」

作/hasegawa kazuya

歩道橋の上から見下ろしたセピア色の街並は、やさしく東郷を包み込んだ。
週末のみゆき通り、大使狙撃の鮮やかさに自ら酔いしれる東郷を気に留めるものは誰もいない。
肩を寄せ合い通り過ぎる恋人達を横目に東郷は、いかにもニヒルな笑みを浮かべるのであった。

俺には相棒のM-16さえあれば良い、そう見えるのは読者だけで、「やっぱ、俺にも彼女がほしい」というのが彼の本音であったかどうかは定かではないが、堅物の性格がゆえ片思いのスーザンに「つ、付き合ってください」なんて言えないのである。

巧みにクラクションを鳴らしながら、CIVIC TypeRのチャンピオンシップホワイトが東郷の下を果敢に通過していった。
「未熟な技術だ」と勝ち誇ったように、テールランプを眺めながら葉巻を投げ捨てた東郷は、3段階見極めで2度落ちた自分の過去を忘れられないのであった。「俺を殺す気か!」と教官にわめかれたが、最初の狙撃は、そのときの教官であった。
2回目の狙撃は、ヘリコプターの免許をようやく取って、その直後であった。

自分にとって不利な情報を持つものを消す。私情を客観的な理由に置き換え、彼はそれを掟としたのであろうか。

スキーキャリアの中にM-16を忍ばせ、5月の空の下、クツズレの足を引きずりながら人ごみに消え行く彼を微風がやさしく包に込んで放さなかった。


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